農地を売却する方法は?売却が難しい理由と流れ・税金と売買条件

農地を売却する方法

所有していた農地が必要なくなり売却を考えているものの、農地の売却方法を知らないためどうしたらよいか困っていませんか。農地は通常の土地とは違う扱いがされており、売却にあたってはいくつかのポイントに注意しておく必要があります。

この記事では、農地の売却に関する基礎知識について解説します。農地の売却が難しい理由や売買の流れ、税金に関する情報、売買条件などの知っておきたい情報をまとめました。お悩みの方はぜひご覧ください。

監修者紹介
宅地建物取引士
中野香菜 さん
株式会社ジョンソンホームズ

宅地建物取引士。2007年にジョンソンホームズ株式会社に入社し、初めの8年間は住宅営業として活躍。その後営業からマーケティングへとキャリアをシフト。現在に至るまでの8年間マーケティング部門での仕事に携わる。
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農地の売却はなぜ難しい?

農地の売却は難しいものですが、かといって使わないまま放置することにも問題があります。次の2つのポイントから、農地の取り扱いを考えてみましょう。

  • 農地の売却が難しい理由
  • 農地を放置するデメリット

それぞれの詳細を解説します。

農地の売却が難しい理由

農地の売却が難しくなってしまった理由には、農地を購入できる人が限られているという法律上のルールが関係しています。購入を許可されているのは、各自治体の農業委員会から許可を得た人や農家、農地所有適格法人のみです。

このルールは農地法第3条によって、農地が安易に農業以外の目的で使用されないようにするために定められました。農地は食糧確保のために欠かせない重要資源であるため、権利の移動や別用途への仕様に制限がかけられています。農地を農地以外に利用したり売却したりしようとすれば、多くの手続きや条件をパスする必要があります。

農地の売却が難しい理由を踏まえたうえで、「どうすれば農地を売却できるのか?」といった疑問を解消していきましょう。

“参考:農林水産省「農地の売買・貸借・相続に関する制度について」”

農地を放置するデメリット

農地の売却が不可能ならば、そのまま放置してしまえばよいという発想が生まれてくるかもしれません。しかし、農地の放置には次のようなデメリットがあります。

  • 農地のまま活用していなくても固定資産税が課される
  • 農地が荒れてしまう
  • 耕作放棄地になると固定資産税の軽減措置外となる

農地を放置すると、土地が利益を生まない状態のまま固定資産税が課されるため、経済的な負担が増加します。さらに、放置された農地は荒れやすく、近隣トラブルのもとにもなりかねません。

加えて、農地を長期間放置し、農業に使用していないとみなされると、土地が耕作放棄地として扱われるようになります。耕作放棄地は農地が受けていた固定資産税の軽減措置が受けられなくなるため、更なる出費が求められてしまいます。

農地の放置によるデメリットは、決して無視できるものではないといえるでしょう。トラブルや不利益が起きる前に、早めの売却や活用が求められます。

農地のまま売却する場合

農地を売却する方法は、主に以下の2とおりです。

  • 農地のまま売却する
  • 農地を転用して売却する

それぞれ必要な許可や書類が異なるため、それぞれ解説していきます。まずは、農地のまま売却する方法をみていきましょう。

農地のままの売却には、買い手が限られるため売却が難しいという課題があります。農家か農地所有適格者以外は買い手になることができません。農地特有の法律上の制約が残ったままの取引となることを注意しましょう。

農業委員会の許可が必要

農地の売却には、農地法第3条に基づいた規制があります。農地を売却または貸借する際には、農業委員会の許可が欠かせません。農業委員会からの許可を受けないでおこなう売却や貸借は無効とされてしまいます。

具体的に農業委員会の許可を受けるためには、買い主が次の条件を満たしている必要があります。

  • 所有・貸借している農地のすべてを効率的に耕作している
  • 買い主かその世帯員が農作業に常時従事している
  • 法人の場合は、農業所有適格法人の要件を満たしている
  • 申請地の周辺の農地利用に影響を与えない

農業委員会が、これらの要件を満たしていると判断できた場合のみ、農地の売却が許可されます。この許可を一般に3条許可といいます。

なお、以前は農地面積に関する要件が定義されていましたが、2023年4月の農地法改正以降は、面積に関する要件は不問となりました。

農地の買い手を見つける方法

農地の買い手を見つける方法として、近隣の農家や最寄りの農協へ相談することが挙げられます。農地売買を取り扱っている不動産会社が周辺地域に存在すれば、仲介を依頼することも一つの方法です。

また、農地の種類によっては、農業委員会からあっせんをおこなってもらうこともできます。あっせんによる売却は価格を決める権利がない代わりに、譲渡所得税の軽減措置を受けられます。

農地のまま売却する手順

農地のまま土地を売却するためには、次の手順を踏む必要があります。

  1. 買い主を探す
  2. 売買契約の締結
  3. 農業委員会へ許可申請をおこなう
  4. 所有権移転登記

それぞれのステップでおこなうべきことを解説します。

STEP1|買い主を探す

まずは市区町村など自治体の農業委員会に農地売却の相談をおこないましょう。説明を受けたあとに、買い主を探します。地域の農協などの農業関連機関に、農地を欲しがっている人は居ないかどうかを聞いてみましょう。

また、近所に農家が居れば農地売却の提案をすることも有効です。探し出した購入希望者が、3条許可の要件を満たせるかどうかが重要なため、相互に相談を取りながら売却を進めていきましょう。

STEP2|売買契約の締結

買い主が見つかったあと、農業委員会からの3条許可を条件として、売買契約を結びましょう。許可までには時間がかかるため、事前に買い手と売買契約を締結することが一般的です。

万が一、許可が得られなかった場合に売買契約は無効となるため、トラブルを防ぐための契約停止条件を事前に設定することが大切です。

STEP3|農業委員会へ許可申請をおこなう

売買契約の締結後に、農業委員会に3条許可の申請をおこないましょう。次の項目を記載した申請書の提出が求められます。

  • 譲渡人(売り主)氏名など個人情報
  • 譲受人(買い主)氏名など個人情報
  • 農地所有権を移転する旨の記載
  • 農地の所在地、地目、面積
  • 農地の対価
  • 農業の体制(機材・予定作物など)

また、申請にあたっては次のような書類の添付が求められることがあります。あらかじめ農業委員会に必要書類を聞いておき、漏れなく準備できるようにしましょう。

  • 土地登記事項証明書
  • 測量図
  • 位置図
  • 周辺見取り図

農業委員会が買い主を適格者と見なし、3条許可を下せば売買を進められます。

STEP4|所有権移転登記

最後に、所有権移転登記をおこないます。通常の不動産売買とは異なり、農地の取引は農業委員会の許可が下りる前に仮登記をおこなうことが一般的です。許可まで時間がかかるという農地特有の事情に対し、買い主を安心させるための措置といえるでしょう。

許可後に正式な所有権移転登記をおこない、代金の授受を完了させることで売却が成立します。

農地を転用して売却する場合

農地のまま土地を売却しようとすると、買い主候補に大きな制限がかけられます。別用途の土地に転用したうえで売却をおこなうことで、買い主候補の幅を広げることができます。

しかし、農地を別用途の土地に転用するには申請が必要で、土地によっては転用許可が下りないケースもあります。ここでは、農地を転用して売却する方法や手順をチェックしていきましょう。

農地転用許可の申請が必要

農地や採草放牧地を転用して売却する場合には、農地転用許可の申請が必要となります。農地法第5条に基づき、農地を農地以外の用途に転用する際には都道府県知事等の許可を得る必要があるためです。この許可を一般的に5条許可といいます。

転用は農地の販路を拡大できる選択肢ですが、すべての農地が許可を受けられるわけではありません。5条許可は立地基準と一般基準を満たす必要があります。

参考:農林水産省「農地転用許可制度について

農地を転用して売却する手順

農地を別の用途に転用して売却する場合には、次のプロセスを踏む必要があります。

  1. 不動産会社や買取業者などに相談
  2. 売買契約の締結
  3. 転用許可申請の届け出
  4. 所有権移転登記

それぞれのステップでおこなうべきことを解説します。

STEP1|不動産会社や買取業者などに相談

農地の転用には、多くの手続きや法的な制約がともないます。複雑な手続きをスムーズに進めるために、農地の知識を持つ不動産会社や買取業者に相談しましょう。

農地転用の際の法的な手続きに実績のある業者を選ぶことが大切です。また、転用許可後の売却にもサポートは欠かせないため、ワンストップで対応してもらえる業者を選ぶと、スムーズに農地の売却を実現できるでしょう。

関連記事:不動産買取業者ランキングTOP10【2024年最新】特徴や選び方まで徹底解説

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STEP2|売買契約の締結

農地のまま売るときと同じく、許可前提の売買契約を結びます。同様に許可が出なかった時のための契約停止条件を定めておきましょう。

STEP3|転用許可申請の届け出

農地転用許可手続き流れ

画像出典元:農林水産省農地転用の手続き

買い手を確保後に、農地の転用許可申請をおこなって5条許可を求めましょう。3条許可とは異なり、許可権者は都道府県知事となります。申請先は同じく農業委員会であるため、相談をおこないながら、申請書に必要な情報を記載していきましょう。

申請書の記載項目はおおむね次のとおりです。

  • 譲渡人(売り主)氏名など個人情報
  • 譲受人(買い主)氏名など個人情報
  • 農地の情報
  • 転用目的
  • 転用計画

さらに、次の書類の添付を求められます。

  • 土地登記事項証明書
  • 測量図
  • 位置図
  • 周辺見取り図

申請後、許可の条件を満たすことができた場合にのみ、転用をおこなえます。不許可の場合は売買契約が無効となるため注意しましょう。許可申請を不動産会社などに依頼する場合には、手数料などの条件について話し合っておくことも大切です。

STEP4|所有権移転登記

農業委員会からの許可が下りたあとに所有権移転登記をおこないます。まずは登記地目を変更しましょう。登記地目の変更手続きには専門的な知識が求められるため、土地家屋調査士に依頼することが一般的です。

登記地目の変更が完了したあとは、売却代金の清算をおこない、引き渡しと所有権の移転登記を進めます。正確に転用と売却がおこなえるように、不動産会社などとの連携を深めておきましょう。仲介手数料の支払いも忘れてはいけません。

農地の転用条件と転用できない農地とは

農地の転用をおこなう際には、次の2つの条件を満たしている必要があります。

  • 立地基準
  • 一般基準

それぞれの詳細を解説します。

転用条件1:立地基準

立地基準を満たしていない限り、転用はできません。立地基準を満たすかどうかは、農地の5つの区分によって判断できます。区分によって農地転用が可能かどうかが決まるため注意しましょう。

立地基準の要件となる区分を表にまとめると次のとおりです。

区分 農用地区域内農地 甲種農地 第1種農地 第2種農地 第3種農地
農地性質 農業振興地域整備計画の区域内の農地 市街化調整区域内
農業公共投資後8年以内農地
集団農地で高性能農業機械での営農可能農地
集団農地(10ha以上)
農業公共投資対象農地
生産力の高い農地
公共投資の対象外の小規模農地
市街地化の可能性がある農地
都市的整備がされた区域内の農地
市街地にある農地
農地転用の可否 △原則として不可(例外あり) ×転用不可 ×転用不可 〇転用可能 〇転用可能

第2種農地や第3種農地は、一定の許可を得ることで転用して売却することが可能です。しかし、甲種や第1種の農地は、農地としてのみ売却が許されています。

農用地区域内農地は、特定の要件を満たすことで転用できる可能性があります。自分の農地がどの区分の農地であるかを確認しておきましょう。

参考:農林水産省「農業振興地域制度、農地転用許可制度等について(PDF)

転用条件2:一般基準

転用をおこなう土地が適切に利用されるかどうかを判断するための基準を、一般基準と呼びます。具体的には、次の点が考慮されます。

  • 農地転用が適しているかどうか
  • 転用目的が満たされているかどうか
  • 周辺農地の営農に支障をがでないか
  • 一時転用の場合は農地に復元されるか

転用を希望する場合は、これらの基準をしっかりと理解し、条件を満たせるように適切な手続きをおこなう必要があります。

農地の売却価格に影響するもの

農地として土地を売却する際には、次の要素が売却価格に影響します。

  • 日照
  • 乾湿
  • 雨量
  • 土壌の状態
  • 土層の状態
  • 農道の状態
  • 灌漑排水の状態
  • 耕うんの難易度
  • 集落との距離

上記9つの条件は、作物の生育に欠かせない要素です。状態がよければよいほど収穫量や作物の質が期待できるため、農地の価格も高くなるでしょう。

加えて、農地面積や交通アクセスの良さも評価ポイントとなります。

農地売却で課される税金と費用

農地売却をおこなう際には、税金と費用がかかります。以下の3つのポイントに分けて、農地売却で課される税金と費用について解説していきます。

  • 農地売却で課される税金
  • 農地売却でかかる費用
  • 農地売却で利用できる税の特例

農地売却で課される税金

農地の売却で利益が出た場合、所得税と住民税が主な税金として課されます。譲渡所得に所有期間に応じた所得税率を適用することで、住民税額や所得税額が計算されます。

農地売却で発生する税金は、次のように計算できます。

譲渡所得=売却で得る収入-農地取得費用+売却にかかった費用
所得税額=譲渡所得×所得税率
住民税額=譲渡所得×住民税率

所得税率と住民税率は、土地を所有していた期間によって異なります。

所得種類 土地の所有期間 所得税率 住民税率
長期譲渡所得 5年を超える 15% 5%
短期譲渡所得 5年以下 30% 9%

自分の条件に応じて計算をおこない、税金を算出しましょう。他にも、印紙税や登録免許税もかかります。

農地売却でかかる費用

農地の売却では多様な手続きが必要となり、それにともなう費用が発生します。各専門家へ依頼する場合は依頼費用がかかることを理解しておきましょう。

  • 申請依頼費用所有権移転登記:司法書士
  • 農地転用許可申請:行政書士
  • 地目変更登記:土地家屋調査士

また、不動産会社を通じて農地を売却する場合には仲介手数料も発生します。仲介手数料は売却金に割合を定めて不動産会社に支払う仕組みとなっており、売却を依頼するための媒介契約の締結時点で決定されます。

農地売却で利用できる税の特例

農地の売却に関する税金は、一般的に譲渡所得税として課税されますが、節税が可能ないくつかの税の特例が存在します。特例を利用するためには確定申告が必要となるため注意しておきましょう。

農地の売却で使える控除は次のとおりです。

  • 800万円特別控除
  • 1500万円特別控除

ただし、これらの控除は売却を不動産会社に依頼した場合には受けられません。控除の条件には農地中間官営機構が関わるため、各自治体の農業委員会に適用できないか相談しましょう。

転用での売却では、最大5000万円控除が受けられます。公共事業を目的とした土地収用法によって買い取られた場合に利用できる控除で、現実的に利用できる機会は多くはありません。

農地売却に必要な書類

農地の売却をおこなう際には、次の書類が必要となります。

  • 固定資産税課税明細書
  • 登記事項証明書
  • 公図
  • 地積測量図

固定資産税課税明細書は不動産の査定額の計算に必要です。登記事項証明書は売却する土地の詳細情報が記載されているため、売却時の提示が欠かせません。公図と地図測量図は土地の形状や地籍を地積するための書類です。

売却をスムーズに進めるためには、これらの書類をあらかじめ準備しておくことが大切です。

農地売却の際に抑えておきたいポイント

農地売却をスムーズに進めるためには、次のポイントを抑えておくことが重要です。

  • 農地売却が得意な不動産会社を探す
  • 農地として売る場合は5年以上所有して売る
  • 農地の手入れをしておく
  • 複数の査定結果を比較する

それぞれの詳細を解説します。

農地売却が得意な不動産会社を探す

農地の売却は、通常の不動産売却とは異なったの知識や手続きが必要となります。不動産会社に売却依頼をおこなう際には、農地売却の実績が豊富な不動産会社を選びましょう。

農地の法的な制約や地域ごとの農地利用の違いなど、専門的な知識を持つ不動産会社であれば、スムーズな売却が期待できます。

また、農地の価格査定や適切な売却方法の提案など、専門的なサービスを提供してくれる会社を選ぶことで、安心して売却を進めることができるでしょう。

農地として売る場合は5年以上所有して売る

農地として土地を売りたいときには、所有の開始から5年が経過してからの売却がおすすめです。売却時の税率が長期譲渡所得扱いとなり、売却益にかけられる所得税率と住民税率が約半分となります。

所得種類 土地の所有期間 所得税率 住民税率
長期譲渡所得 5年を超える 15% 5%
短期譲渡所得 5年以下 30% 9%

5年以下の売却は短期譲渡所得となり税率が高くなります。

“参考:国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」”

農地の手入れをしておく

土地を売却するならば、なるべく高値で売りたいものです。土地の魅力を最大限に引き出すため、適切な手入れをおこなっておきましょう。

売却までの期間、土地をきれいな状態に保つことで、購入希望者によい印象を与えることができます。

土地の手入れを怠ると、雑草の増加や不法投棄のリスクも高まります。価値を下げる要因となり得るため、定期的な管理と手入れが必要です。

複数の査定結果を比較する

農地を売却する際には、複数の不動産会社に査定を依頼し、結果を比較するようにしましょう。幅広い視点から土地を評価してもらえるため、土地の適切な相場を知る手助けとなります。

土地の売却では、相場よりも高すぎず、安すぎない価格を設定することが重要です。適切な価格で土地を売れるように、複数査定をおこないましょう。

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まとめ

農地の売却には農地のまま売却する方法と、転用して売る方法の2つが存在しますが、どちらの方法を選択する場合も、農業委員会の許可が必要となります。一般的な不動産売却とは異なるルールや手続きが存在するため注意しましょう。

農地を売却する際には、まずは農業委員会との相談をおこないましょう。そのあとに買い手を探し出し、仮契約を結びます。許可が下りれば本契約となります。所有権移転登記などの手続きを問題なくおこなえるように、重要書類はあらかじめ準備しておくことが大切です。

この記事で紹介した農地売却の方法や手順を理解して、売却のための第一歩を踏み出してみましょう。

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