寿都の港にひらく、海の小さな食堂「魚よし」ー もったいないを美味しさに変える、家族の手しごと。
たべる
なかの2025.10.31

北海道・日本海側に位置する静かな港町、寿都(すっつ)。
札幌から車でおよそ3時間、積丹半島を越えた先にあるこの町は、海と風のまちです。
かつてはニシン漁で栄え、今も当時を伝える「ニシン御殿」と呼ばれる建物が一棟、町に残っています。
人口はおよそ2,500人。ツーリングやドライブで通り過ぎる人々がぽつらぽつら。暮らしの息づく港町といった印象です。
風が強く、海の音が日常に溶け込むこの町は、道民でも訪れたことのある人は少ないかもしれません。
そんな寿都の港と道の駅のすぐ前に、近ごろ話題の小さな魚屋「魚よし(さかなよし)」があります。
店主は、長年寿都の漁業に携わってきたお父さんと、札幌で営業職として働いてきたお母さん。
そして、そのお店を支え続けているのが、ジョンソンホームズの元スタッフ・木村さんです。

「魚よし」は、家のガレージを改装してつくられたお店。
施工はすべてお父さんの手によるもので、1年ほどかけてDIYで仕上げていったそうです。
打ちっぱなしのコンクリートをそのまま生かし、シンプルで洗練されたインテリアは、漁師町の空気に似合うシャープでどこか都会的な雰囲気が漂っています。
「僕が仕事で暮らしや空間づくりに関わってきた経験が、父の店づくりにも少し影響しているのかもしれません」と木村さんは話します。

木村さんは、インテリアショップ「inZONE with ACTUS」のショップスタッフとして入社。
その後、新築戸建ブランド「ナチュリエ」で住宅営業を担当し、多くのお客様の家づくりに携わってきました。
暮らしや空間づくりにじっくりと向き合う中で、「住む人の毎日をどう豊かにできるか」という視点を自然と身につけていった木村さん。
その経験が、今の考え方や、ご両親の店づくりを支える感覚にも生きているように感じます。
お店ができるまでのことや、そこに込められた思いを、木村さんに聞きました。
「魚よし」は、もったいない魚から生まれた

父は長年、寿都の漁業協同組合で職員として働いてきました。
定年後は、地元の海と生涯関わり続けていきたい強い想いから、知り合いの船に乗って漁を手伝うようになったんです。
漁に出てみると、市場には並ばないいわゆる「雑魚(ざこ)」が意外とたくさんいるんです。
味はすごく美味しいのに、形や大きさの理由で捨てられてしまうことも多くて。
寿都では魚を食べられるお店が少ないこともあって、そんな魚を食べてもらおうという思いから、店を始めることになりました。
寿都の魚を美味しく楽しめる、色んな人が集まる場所に

お店では、寿都と隣の島牧村の海で獲れた魚”だけ”を出しています。
その日の漁の状況で、どんな魚が並ぶかは変わるので、メニューはおまかせ。
普通は市場や様々なところから仕入れた魚を出すお店が多いと思いますが、
「魚よし」では、海産物メニューのすべてが父が漁で獲ったものなんです。
ここまで地元の魚にこだわっているお店は、寿都でもほかにありません。
お客さんからも、「こんな魚を食べたのは初めて」と言われることも多くて。
父もそう言ってもらえるのが嬉しいようでようです。
夜になると、父は「明日はどんな魚が獲れるかな」と、まるで子どものように楽しそうに話していて。
その姿を見ると、寿都の海が本当に好きなんだなと思います。
寿都の海を伝え、まちをつなぐ「魚よし」のしごと

寿都にはお酒を飲めるお店が数軒しかなく、「魚よし」は町の人が自然と集まる場所になっています。
お店は事前予約制でランチや夜の宴会を受け付けていて、魚がよく獲れた日には、ふらっとお店を開けています。
イクラやウニなど、父が自分で加工した海産物を冷凍して販売もしていて、お取り寄せで買ってくださる方も多いです。
全部寿都近海で採れた新鮮なもの。おまかせランチ
丁寧に、海の恵みをそのまま詰め込んでいます
実は寿都の道の駅のごはんメニューに使われている魚も、「魚よし」で加工したものなんです。
最近では、地元の小学校の漁業学習を開きました。
子どもたちが魚の扱いや地元の海のことを学ぶきっかけになっていて、寿都のまちづくりにも少しずつ貢献できているのかなと思います。
お取り寄せや贈り物にも人気の冷凍加工品
子どもたちから届いた感謝のメッセージ
地元の方はもちろん、道外からわざわざ来てくれる人や、インスタグラムを見て立ち寄ってくださる方、中には、ジョンソンホームズ時代に家づくりを担当した住宅のオーナーさんが訪ねてくれることもあって、本当に嬉しいです。
ジョンソンホームズで働いていた時に出会った方々が、今こうして寿都まで足を運んでくださるのを見ると、人との繋がりってありがたいなと感じます。
本当に色んな所から人が来てくれて、その繋がりが少しずつ広がっていくのを実感しています。
自分のペースで働きながら、好きな場所で暮らす

今は、所属する旅行会社での仕事をリモートワークで行っているので、札幌と寿都を行き来しながら「魚よし」のサポートもしています。
ヨーロッパからの訪日客を中心に、日本を旅するお客様のアクティビティツアーの手配を主に行っています。
特にバックカントリースキーやスノーボード、本州の登山や自転車旅行に特化したツアーがメインで、航空券や宿泊施設の手配をしながら、ガイドのサポートとしてお客様と直で接することもあり、ツーリングなどの活動にも参加することもあります。
ジョンソンホームズで働いていた頃は、「暮らしを楽しむ」という言葉を日々感じながら仕事をしていました。
その感覚は今もずっと自分の中にあって、寿都での暮らしや仕事の仕方にも自然と生きていると思います。
「魚よし」を手伝うことで、家族や地域とのつながりを感じられたり、旅のガイドの仕事を通して、日本を訪れる人たちの「特別な時間」を支えられたり。
どちらも、誰かの暮らしや時間をより豊かにするという意味では、根っこの部分は同じだと思うんです。
今の暮らしは、自分にとってとても心地いいバランス。
寿都や札幌、日本各地、海外を行き来しながら、仕事や家族、自分の時間を自分のペースで楽しんでいます。
海の近くで過ごす日もあれば、旅先で新しい出会いがある日もある。
そんな毎日の積み重ねが、自分らしい暮らしになっている気がします。
左から木村さん、店主のお父さん、お母さん
店は寿都漁港のすぐ近く
- 記事を書いた人
- なかの ジョンソンホームズ マーケティング本部
自然に囲まれた田舎で暮らしています。
休日は屋上で猫とのんびり、家から一歩も出ずに過ごすのが最高。

